第8章 夏の始まりと合宿と…
昨日は雲っていて星は見えなかった。
もう、こんな時間だが…雪村は来ているだろうか…
約束などしてはいないが、この合宿中の密かな楽しみだ。
庭へ出ると、雪村はいなかった。
ここでタオルを干し終えて休憩をしているから雪村がいつもここにいたのであって…
合宿最終日ともなりタオルを干す必要もなく、枕投げのせいで消灯時間まであとわずかとなった今は、
「いるはずがないか。」
そう、独り言を呟いてしまって、自分でそれに驚く。
やはり…約束をすればよかった。
明日も一緒に星を見よう、と。
俺は…そうか…
後悔をせぬようにするには、自ら進んで言葉をかけねばならぬな。
今となっては夢主(姉)と俺は違いがありすぎて、恋人として不向きだったのだろうということが客観的に理解出来る。
そして俺達は言葉が足りなすぎた。
同じ過ちはすべきではないな…
綺麗に星が出ている空を見上げると、雪村への想いで胸がいっぱいになった。
「あ…斎藤先輩。よかった…いらしてたのですね!」
後ろから、雪村の声が聞こえる。
「わぁ…綺麗。今日の星が今までで一番沢山に見えます。」
俺の横へ並んで、空を見上げて、わぁ…と幾度か呟きながら、星を見ている。
雪村、と声をかけようとして、俺は思わず言葉を飲み込んだ。
月明かりと星の明かりに照らされて、とてつもなく綺麗で…
「…雪村」
ほぼ、衝動的に、俺は雪村の頬に手を伸ばす。
驚いたように、こちらを向くと、
「斎藤先輩?」
と、不思議そうな顔をして俺を見つめる。
「…今日はもう来ないかと思ったら、昨日約束をしておけばよかったと後悔をした。」
「………」
「来てくれて嬉しい。」
自分でも驚くほど、素直な気持ちが言葉となって、口からこぼれ落ちていく。
「素直に…あんたと星が見れて…今、この時間が嬉しい。」
「斎藤先輩・・・」
目を見つめながらそう言えば、みるみるうちに赤くなる雪村だったが、俺はそのまま雪村の頬に手を添えて、目をそらす気はなかった。
「雪村」
赤くなりつつも、俺の目をじっと見つめてくる雪村に、俺は…
「好きだ」
溢れる想いを伝えた。
俺は雪村が好きだ。
これからも約束を出来る距離でありたい。
一緒に星を見るのも、不自然ではない距離に。