第8章 夏の始まりと合宿と…
あ…そうだ、傷にもう一度塗っておこうと思ったんだ。
再び膝を立てて、赤チンのふたを開ける。
「ねえ、夢主(妹)ちゃん。それ、塗るの?僕に絵を描かせてくれない?」
え…いいですけど…と、おどおどして言えば、沖田先輩はにこりと笑って、私の手から赤チンを受けとった。
私の足を少しおさえて膝の傷に集中する沖田先輩に、なんだかすごく恥ずかしくなって、全身の神経が膝に集中してしまう。
うう…くすぐったい…
くすぐったくなって、足を動かせば、
「だーめ」
と、言われてぐいっと掴まれてしまった。
「よし、できた!」
満面の笑みで私を見る沖田先輩。
膝の傷を見れば、なんだか手の込んだお日様の絵が描いてあった。
「早くよくなりますようにって、お願いしながら描いたよ。」
夏の風が通り過ぎて、私の髪が頬にかかって…
沖田先輩の手が伸びてきて、それをさらりとかきあげてくれる。
「僕が今度擦り傷を作ったら、夢主(妹)ちゃんが描いてくれる?」
それはそれはとっても優しい声で、優しい瞳で、今にもおでこがくっついてしまいそうな距離で、沖田先輩はささやくようにそう言った。
もちろん、私は自分でも真っ赤になってるのがわかるくらい、顔が熱くなった。
耳や首まで熱い。
そんな私をいつものように、あはははと笑う沖田先輩。
こうやって…ずっとからかわれ続けるのかな…私。
なんだか悔しいし悲しい。
ふと脳裏に、夕方見たお姉ちゃんと原田先生の姿が浮かぶ。
あんな風に気持ちを通わせることができたらいいのに。