第8章 夏の始まりと合宿と…
ここの合宿所は大きな一軒家みたいになっていて、ちょっと楽しい。
縁側に座って、外の空気を吸い込むと、夏のにおいでいっぱいになって、なんだか小さな頃を思い出す。
怪我をすると、いつも赤チンを塗ってくれてた事をを思い出して懐かしくてくすぐったくなった。
膝をたてて、擦りむいた所を見てみる。
もう一回くらい塗っておこうかな…
そう思って、ポケットに手を入れる。
「夢主(妹)ちゃん」
沖田先輩がいつのまにか後ろにいて、私に声をかけると、よいしょっと、と隣に座った。
「うわぁ…傷、痛そうだね…まだ痛い?」
「いえ…お風呂はさすがにしみましたけど…これ塗っておけば治りますから。」
私が自慢げに赤チンを沖田先輩に見せると、
「あはは。今どき赤チン持ってる子、いないよきっと。」
なんて、沖田先輩は笑ったのだけど、なんだか馬鹿にされてるかんじはしなかった。
「小さい頃から怪我したら赤チン…って思ってたので…」
今朝の先生達の反応といい、そんなに珍しいものか…と、なんだか恥ずかしくなってしまう。
「そうなんだ…僕も小さい頃、怪我をした時、近藤さんに塗ってもらったよ。」
沖田先輩はお風呂あがりで、少し髪が濡れてる。
制服とも体育着とも違う、Tシャツとスウェットのラフな姿で…
いつもとは違う雰囲気だった。
そんな沖田先輩は、目を細めて、優しい笑みを浮かべながら見てる。
話してることはたいした内容じゃないのに、ドキドキドキドキしてなんだか落ち着かない。
思わずぼーっと沖田先輩の目を見つめたままな私に、こう続けた。
「近藤さんはね、擦りむいた所に赤チンでお日様の絵を描いてくれたんだ。何日か消えないけど、消えてしまった日は少し寂しかったな。」
あ…わかるな、それ。私の場合は、何の絵を描いてもらうかリクエストしたっけ。
「わかります、それ…。」
私がそう言い終えると、お互いに縁側から遠くを見つめて、しばらく沈黙の時間が流れた。