第1章 ◎出会い
「すいません…。」
自分の早とちりで
服をずぶ濡れにした挙句
まるで馬乗りのような態勢で
体重を預けてしまった。
「全然大丈夫だよ。
それに、ダイブしたおかげで
見つかったよ。」
男の人は海に浸かった手を
私の目の前に差出して
手を広げた。
「鍵?」
「バイクの鍵。
落としちゃったんだよね…。」
鍵を探してたんだ。
まぐれで見つかったからよかったけど
見つからなかったら
大変だったよな…。
「全然気にしなくていいから。」
羽織っていたパーカーを脱ぎ
立ち上がった。
私も立ち上がろうとしたら
目の前に手を差し出された。
「風邪ひいちゃうから
早く上がろう。」
そう言って微笑む。
何だろう。
この人の笑顔、好きだな。
「波留-!
って、大丈夫!?」
五時になったのか
まことちゃんが
海に尻餅をついた私を見て
慌てて駆け寄ってきた。
「お前か!
波留をこんなにした奴。」
「違う!違うから!!」
状況を説明して
何とか落ち着いてもらうと
今度は私にデコピンをした。
「早まるなって
こっちのセリフよ。」
「ごめんってば。」
私たちが言い合っているのを見て
あの笑顔をまた見せた。
「じゃあ、もう行くね。」
「あぁ、待った!
勘違いして怒鳴っちゃったし
その服じゃ風邪ひくから
兄貴の服貸すよ!!」
まことちゃんは
勢いよく立ち上がり
近くにある家へと向かった。
「あの…本当にごめんなさい。」
「大丈夫だってば。
それに、止めに入るなんて
いい子にしかできないよ。」
海の微風に
気持ちよさそうに目を瞑る横顔に
少し胸が高鳴った。