第11章 紹
「そのまま万事屋に行くんですかィ?」
廊下を進む背中に声を掛ける。
朱里は振り向いて、あっさり言った。
「行きませんよ」
牛乳瓶の底みてェなメガネのせいで、表情は読み取れねェが。
その言葉に偽りはなさそうだ。
「じゃあ、今日の予定は?」
「部屋掃除」
「暇なら付き合ってほしいんでさァ」
「暇じゃない」
「15時、家康像の前で待ってまさァ」
「行かない」
「勝負下着忘れるんじゃねーぜ」
「誰のために」
「俺のために決まってまさァ」
「嫌だ」
全く、可愛げの無い女。
俺にだけ、懐かねェ。
「万事屋に土産、届けに行くんだろィ?」
「行かない」
「俺が直々に付き合ってやるんですぜ?」
「断る」
「有り難く思え」
「何で?」
「15時、遅れないで来てくだせェ」
「絶対、嫌」
「デート、したいんで」
「…………は?」
会話を勝手に終了して。
逆方向に廊下を進む。
背後で『行かない』と聞こえたが。
俺にとっちゃ、関係ねェ。
15時。
朱里は待ち合わせ場所に、絶対来る。
結局、俺の誘いを受ける。
『万事屋』という弱味を握られて。
このままいけば。
夕方には、面白れェモノが見れそうだ。
吉と出るか凶と出るか。
俺が道先案内人、してやりまさァ。