第10章 文
頬を撫でた手が。
そのまま頭を引き寄せる。
身体を起こして、腰を抱く。
腕に力を込めて、閉じ込める。
「どうだ、銀さんの腕の中は」
あんたが望んだ『ギュッ』ていうのは。
こんな感じでいいのか?
こんな頼まれ事は初めてだ。
正しい形なんて、判らねェ。
それでも。
俺の着物を掴んで。
頬を胸に寄せてくれたから。
俺の模範解答、正解ってことか。
頭をポンポンと撫でてやれば。
「ふっ」と浅く息を吐いて。
ゆっくりと、身体の力を抜く。
怖ず怖ずと、脇の下から背中に回った腕。
正面から抱き締められるのは、初めてか。
「いつも温けェな、朱里ちゃんは」
こんなに、華奢だったんだな。
強くしたら折れそうな腰も。
刀の長さに合わない、細い腕も。
これからは、好いた男に委ねればいい。
寝れない夜の抱き枕も。
たぶん、必要なくなるだろ。
生身の人間抱けば、ぐっすり眠れるよ。