第8章 再
それからも朱里さんは、万事屋に通い続けてくれた。
あるときは、お土産を持って。
あるときは、二泊三日を過ごしたり。
滞在時間は様々だったけど。
そのとき、そのときが楽しかった。
「今日も、ジャンケンで決めるアル!」
寝る前の場所取り合戦は、もう恒例で。
僕は……一度も朱里さんの横に陣取ったことはないけど。
ムキになる僕らを、朱里さんが愉しそうに見てるから。
調子に乗って、僕らは騒ぎ立てて。
「もう新八は泊まらなくていいネ。一度も朱里の横になったことがないアル」
「残念だなァ、ぱっつぁん」
「じゃあ、譲ってくださいよ!」
馬鹿にした口調の二人に反論すれば。
「嫌だね」
「嫌アル」
結局、こんな感じで。
結局、朱里さんの横で。
銀さんも神楽ちゃんも、寝たいんじゃないか。
僕の意見なんて。
こいつら、寝耳に水ですよ。
そのやり取りを見ている朱里さんは。
嬉しそうに笑っていて。
「笑い事じゃないですよ、朱里さんんんん!」
僕の声にも、笑顔で答えて。
「だって、嬉しいから」
そう言って。
「ここは温かいから、大好きなの」
誤魔化すように、目を伏せた。
それが、僕の見た。
朱里さんの、最後の表情。
最後の台詞は。
「ちゃんとココに帰ってこいよ」
銀さんの言葉に返した。
「ありがとう、坂田さん……いってきます」
夜明け前の静寂に響いた、凛とした声。
江戸に戻ったときは。
この、かぶき町に。
万事屋に。
寄ってくれると。
そう、信じていたんだ。
当たり前が。
相対した、絶対じゃないのに。
あれから、二ヶ月。
朱里さんからは、何の音沙汰もない。