第5章 香
六度目は、想像以上に早く訪れた。
あの夜から、一週間後。
銀さんが、朱里さんを担いで帰ってきた。
「おかしくないですか?」
人拐いに見えますよ。
拉致ですよ、それ。
女の子って、横抱きの方が喜ぶんじゃないでしょうか?
抱えるではなく、担いでますよね?
「……落ちてんのを拾っただけだ」
今日の銀さんは、頗る機嫌が悪い。
視線だけで人を殺せそうな目をしてる。
「仕置きが必要だから、拾ってきた」
「何処に落ちてたんですか?」
「あ?階段だね」
怖…。
笑顔なのに目が笑ってないよ、この人。
しかも、担がれた人、動かないよォォォ?
「朱里さん?」
僕が名前を呼ぶと同時に。
「新八ィ、神楽連れて家帰れ。明日も来るな」
口を開きかけた僕に。
反論は許さないとでも言うように。
脱いだブーツも正さず家に上がって。
そのまま部屋の引き戸をピシャリと閉められる。
掃除の途中だった僕は廊下に取り残されて。
磨りガラスの向こうの人影を目で追うしか術がない。
銀さんが、家に不機嫌オーラを持ち帰るのは稀だ。
確かに、枕が変わってからの銀さんは。
「寝にくい」を連呼していた。
普段、どこでも寝れる人の言葉とは思えなっかったけど。
僕は、それを理由にしたい理由があると知っていた。
銀さんも、神楽ちゃんも、僕も。
口にしないだけで、後味の悪さを引きずっている。
「行こう、定春」
三角巾を外して畳んで。
下駄箱の上に乗せて。
草履を履く。
事の成り行きを玄関で見ていた定春と。
神楽ちゃんを探しながら、帰路に着いた。
「悪いことが起こりませんように」