第1章 猫
某月某日
猫を拾った。
拾ったと言うと、語弊があるかもしれない。
今日、泊まってってもいいよ的な。
夕飯食ってく?
みたいな。
そんな感じで、家に上げた。
綺麗な黒猫。
艶のある毛並み。
蜻蛉玉みたいな蒼い目。
どっかの誰かに、何処となく似ている。
「家に、くるか?」
安いナンパみたいな常套句。
階段の下で、月を見上げる猫に声を掛けた。
驚いたように目を大きくした猫は。
「にゃーお」
と、目を細めて鳴いた。
階段を上り始めると、猫は三歩下がった位置を音もなく歩き。
玄関の前で止まる。
見下ろすと、猫は俺を見上げて。
「にゃぁ」
と、一声鳴く。
「ハイハイ、どうぞー」
ガラガラと引き戸を開けると。
猫は馴れた様子で、敷居を跨いだ。
「ん?どうした?遠慮してんのか?」
冷蔵庫からいちご牛乳を出して。
床に置いた皿に注ぐ。
「え?何?俺が直飲みしたから嫌なの、お前」
お父さんと洗濯物は別にしてってヤツ?
猫まで俺をオッサン扱いか。
「それとも、いちご牛乳が嫌なの、お前」
カルシウムは大事だと持論を語るが。
それでも、皿を見つめて微動だにしない猫。
「…解った。お前の視線の意味は解ったから」
その憐れんだような視線が痛い。
「水ですか?牛乳ですか?どっちが好みだコノヤロー」
傍から見たら独り言。
それとも、ただの酔っ払いか。