第25章 傍
「私が先に逝くときは、最期を看取ってね」
後片付けの最中。
食器を拭きながら、口にした言葉。
「んな縁起でもねェこと言うな」
受け取った丼を棚に仕舞いながら、その背中を諌める。
「行くときも、イクときも、逝くときも、ふたり一緒。俺ァ、手を放さねェ。息絶える瞬間までって、そういうコトだろ?」
朱里ちゃんは、もう一つの丼を拭く手を止めて。
肩を揺らして、クスクス笑って。
一歩離れた位置から、俺を真っ直ぐに見据える。
それから、至極真面目な顔して。
「貴方の最期は、私が」
嫁に来る来ないの話の延長に。
看取るって。
家族が増えるとか。
宝くじに当選するとか。
そういう人生すごろく的なドラマはさておき。
いきなり『死』という人生の最終地点について。
それほど『死』と隣り合わせの戦場に。
その身を置いて、刀を振るうなんて。
どんだけ危険な任務を請け負ってんの?
『今すぐ辞めて、万事屋に永久就職しちゃえば?』
そう言えたら、どんなにいいか。
そう言ったって、刀を振るわせることに変わりはないのに。
「互いの死に場所、見っけた感じ?」
そんな不安そうな顔しなくても。
それが朱里ちゃんの望みなら。
叶うように、善処します。
それが、この場所でも。
病室でも。
戦場でも。
俺のために、とか。
朱里ちゃんのために、とか。
そういうの、無しな。
どういう最期でも。
後悔しないように生きて。
いい人生だったって、笑って終われるように。
間違っても。
依頼なんて、絶対言うなよ。
どんだけ大金積まれても。
依頼じゃ、そんな苦行。
絶対、引き受けらんねェから。