第23章 望
「朱里ちゃんは、銀さんを怒らせたいの?」
泡だらけの湯舟から見上げる視線。
何て言うか、楽しそうで羨ましいわ。
「……困らせたい」
えーと、何?
俺の聞き間違いじゃなければ。
『困らせたい』って聞こえましたけど。
「まだ帰りたくない……」
じゃあ、いつ帰んの?
空、明るくなっちゃうよ?
かぶき町、眠っちゃうよ?
銀さんも、眠っちゃうよ?
「俺ァ、もう十分に困ってんだけど」
風呂場で、服着たままの俺と。
泡風呂で、全裸で寛ぐ朱里ちゃん。
服着てれば、担いで連れ帰ることができた。
でも、先手を打たれた今は。
風呂から出るのを、待つ以外に方法がない。
「あっちで待ってるから、気が済んだら出てこい」
逆上せんなよ、と付け加えて。
俺は部屋へと踵を反す。
服脱いで、一緒に風呂入るのは簡単だけど。
そこでスイッチ入れるのは、得策じゃない。
たぶん、家に帰るのは昼前だ。
腰から得物を抜いて、着物を脱ぐ。
円いベッドに身体を預けて、天井を仰いだ。
ピンクの照明に、シャンデリア。
鏡張りの天井。
西洋の城の中は、キラキラ通り越して。
ピンクと紫の世界。
どぎつくて、妖しい色してやがる。
こんな場所で、行為に集中できんの?
鏡に写った姿見て、興奮すんのか萎えんのか。
まぁ、ヤってみなきゃ判んねェけど。