第22章 誘
和室に二枚、布団を並べた。
後片付けの最中。
皿に描いたハートマークがお湯に流れて。
泣きそうな顔した朱里ちゃんのこめかみに、唇を寄せた。
ケチャップだから、そのまま残すの無理だって。
そう言ったら、肩に凭れてきたから。
泡だらけの手を綺麗に流して。
あやすように抱き締めた。
朱里ちゃんは、風呂に入ってる。
一緒に過ごす時間は、まだ残ってるのに。
時折、切ない表情を伺わせて。
言葉にしないから、まだ聞かない。
何を考えてるかなんて、想像の範囲で解るけど。
泣き虫の朱里ちゃん。
1ヶ月も手放して。
俺の方が、心配なんですけど?
どこに行くか、知らない。
何をしに行くのか、知らない。
誰と行くのか、知らない。
聞いたのは、大体の期間だけ。
幕臣の朱里ちゃん。
家族にすら言えない、機密事項もあるだろうし。
聞いてはいけない一線が、あるだろうし。
話したくないことも、あるだろうし。
『ここで待ってる』
それだけじゃ、離れる不安は拭えない。
互いの肌の温度は知っていても。
俺たちは、互いのことを知らないままだから。
少しずつ。
そう言ったのは、俺。
時間が足りないことは、知っていたけど。
「お風呂、お先に頂きました」
布団の上で胡座をかく俺の背後で。
濡れた髪を拭きながら。
「一緒に寝るって……言ったのに」
また、泣きそうになってるけど。
布団二枚敷いた、俺のせい?