第17章 帰
「女性専用なので、通報されます」
そう言った朱里ちゃんに促されて、敷居を跨ぐ。
女のコの部屋に上がるなんて、久方ぶりだ。
綺麗で広い1LDKの造り。
「急いで、準備します」
ソファを勧めて、奥に入って行く。
前に言ってた。
『基本、寝袋』で眠るという言葉。
必要最低限の物だけが並ぶ部屋を見て。
執着がないのだと知る。
「ここが帰る場所じゃねェってことか」
何もない部屋を見回して。
窓辺に足を向ける。
小さく見えた万事屋。
彼処より、見晴らしが良くて。
セキュリティも万全。
年頃の女のコの部屋の中なんて知らねェけど。
余りにも殺風景だ。
「お待たせしました」
扉が開いた先も薄暗い。
生活臭が、無い。
「朱里ちゃん、ちょっと」
俺の手招きに、荷物を置いて寄ってくる。
万事屋でも、自分家でも、無防備なのは変わらない。
「銀さん、ここまでの道は覚えたから。何かあったら、ちゃんと助けを請うようにしてくれ。それが些細なことでもいいから」
「はい」
「これからは帰る場所、あんだろ?」
「はい」
「約束ね」
「はい」
子どもをあやすように頭を数回撫でて。
それから、ギュッと抱き締める。
「お利口な朱里ちゃんに、ご褒美な」
甘えるのが下手な、俺と朱里ちゃん。
お互いを甘やかして。
これからは、お互いが帰る場所に。
そうなればいいと、俺は思うんだけど。