第15章 名
「いねェ……」
目が覚めたときの、ガッカリ感。
身体を起こして、隣に視線を落とす。
昨日のテンションで。
朝からイチャイチャできるなんて。
まぁ、単純に考えて。
思っちゃいねェけど。
「布団の中でする挨拶も、いいと思うんだけどね」
大きく伸びをしてから立ち上がる。
昨晩は、風呂も入らず寝ちまった。
盛大な欠伸を一つして。
風呂場に向かう。
襖を開けると、炊きたてご飯の香り。
「おはようございます、坂田さん」
台所には。
以前のように、俺の服を着た朱里ちゃん。
顔色も表情も明るい。
『すげェ、普通じゃね?』
昨日の夜。
何を言って。
何をしたのか。
何も無かったみてェに。
「目玉焼きの焼き加減、どうします?」
冷蔵庫から卵を出して、振り向いた姿。
開きすぎた襟元に。
俺が咲かせた紅い跡。
夢じゃないと、確信できる証拠。
「坂田さん?」
眠気のせいで。
覚えてないとは、言わせねェ。
「……半熟」
答えながら歩み寄って。
隣に立つ。
「ですよね」
俺を見上げる朱里ちゃんが。
あまりにも可愛いから。
「おはよう、ハニー」
顔を真っ赤にして、怒るってわかってても。
もう一度、その唇に。
優しく、口づけた。