第14章 諦
身体の位置を変えて。
乱れた身形を整えてやる。
諦めの境地だわ、コレ。
長い髪に触れて。
口元に寄せて。
平常時なら、顔を赤くするだろうと想像しながら。
軽く口づけてみた。
らしくない。
こんな甘い行為は。
大事なモノを、愛でるなんて。
今まで、したことがない。
それでも。
したい。
してみたい。
大事なモノを。
存分に愛でてみたい。
劣情のままに。
許されるなら。
本能のままに、抱いてしまいたい。
「本当、らしくねェ……」
腕を伸ばさなくても触れられる至近距離。
『欲しい』と言われ。
『やる』とは言ったが。
これで恋仲に、なったわけでもねェのに。
鎖骨に付けた紅い跡だけが鮮明で。
こんな場所に。
所有印みたいに。
今になって、夢中になっていたと自覚する。
「安心したみてェに、寝やがって…」
夕刻、ここに来たときは。
本当に酷い有り様だった。
青い顔に無表情。
悪い夢見て、眠れてないことも。
俺に逢うのを、避けていたことも。
全部承知で、引き取った。
暫く、その寝顔を見ながら。
久しぶりの緊張感を味わいつつ。
抱き枕、坂田銀時。
今日もお勤め、させていただきます。
「目が覚めたら、容赦しねェからな」
届くはずのない声に。
反応したかのように。
その手が俺の服を掴んだから。
俺も、今日は良い夢見れそうだ。
「おやすみ、朱里ちゃん」
額に一つ口づけて。
俺もそのまま、眠りについた。