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【薄桜鬼 トリップ】さくら玉

第10章 1865年 元治二年


冷たい風がなんだか心地良くて、立ち上がると同時に軽く伸びをした。

「じゃあね、夢主(妹)ちゃん。寂しくなったらお兄ちゃんの所においでよ。」

そう言って、目の前に自室の襖を開ける。

「おい総司」

夢主(妹)ちゃんの「ありがとうございました」っていう声に重ねて、土方さんに呼び止められた。

何かと思ったら…

「俺に兄貴はいらねえな。」

は?何言ってるの…って…そういうこと?

へえ…土方さんがね…。

「土方さん、でれでれしすぎですよ。」

不意打ちすぎてうまく返せなかったけど…あらら…夢主(妹)ちゃん真っ赤っ赤。


あーあ。

ずるいよね。

副長が小姓と恋仲って…。

真っ赤になってた夢主(妹)ちゃんを思い出して、勝手に顔がほころんだ。





自室の襖を閉めて、ごろりと布団に寝転がる。

楽天家…か。

ほんとに夢主(姉)ちゃん元気かな?

山南さんが薬を使ったら、それは夢主(姉)ちゃんには伝わるのかな?

薬の存在は知らないだろうし… どうかな。

でも山南さんとあの日…

全くうちの副長も総長も手が早すぎるよ。


夢主(姉)ちゃんは…もし山南さんが「失敗」したら悲しむのかな?

僕は?僕にとっても山南さんは大切な存在だよ。

僕は悲しむのかな?

「失敗」しなかったら、悲しくないのかな?

わからないや。



ゴホッゴホッ…

少し体を冷やしすぎたみたいだ。

楽天家で能天気な夢主(姉)ちゃんは、薬の事を知ったらなんて言うんだろう?

そんなことばかりが頭を巡る。



「沖田さんお薬です。」

少し眠ってたみたいで、気がつけば部屋は真っ暗だった。

いつもの千鶴ちゃんの声が聞こえて、灯篭に火をつける。

最近は千鶴ちゃんのこの穏やかな声が少し好きなんだ。

「夕餉にいらっしゃらなかったので…」

と、僕の好きな具が入った味噌汁と小さな握り飯も持って来てくれた。

「ありがとう」

今日はなんだか気分が穏やかで…千鶴ちゃんが来てくれたのを素直に嬉しいと思うんだ。

「い、いえ」

千鶴ちゃんは真っ赤になって下を向いちゃってる。

君のその気持ちに応えられるようになるには…ちょっとまだ…無理そうだけど。

「来てくれて嬉しいよ」

でも、これは本当の気持ちだよ。
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