第8章 1864年【後期】決意の時
そんな夢主(妹)に、
「・・・今まで辛かったな」
と、土方は耳元で囁くように言うと、抱き寄せて頭を撫でた。
こいつはきっと、新選組の行く末を知っちまってるのだろう。
命をかけて戦っている以上、この先に良い事ばかりが待っているとは限らねえ。
辛くなるのはこれからか。
それに・・・こいつが警戒した通り、これを下手に知られたらこいつの身が危ねえ。
抱きしめた腕に力を込める。
「安心しろ。俺が守る。」
新選組の仲間としても、一人の女としても。
「この先何が起こっても・・・どんなに辛れえことがあっても・・・俺から離れない覚悟はあるか?」
今にも唇に触れてしまいそうな距離で、土方は夢主(妹)に問う。
その問いに夢主(妹)がぼーっとしたまま、こくりと頷くと、青白い月明かりに照らされて涙に光る夢主(妹)の頬を土方は指で拭い・・・
そっと唇を重ねた。
唇が離れると、やっと我に返った夢主(妹)は顔を真っ赤にし、慌てて土方の腕から離れようとしたのだが、土方はさらに力を込めてそれを許さなかった。
観念して土方の胸に身を預けると、ほのかに墨の香りも混ざった土方の着物の匂いでいっぱいになる。
夢主(妹)の胸はきゅっと締め付けられるような感覚になり、更に心臓の音が早くなった。
「そんな覚悟・・・ずっと出来てます。土方さんの傍に居てもいいんですか?」
「・・・ああ」
秋から冬に変わった冷たい風が、見つめあったままの二人の頬をすり抜けていく。
「冷えるな」と土方は呟くと、夢主(妹)を暖めるようにぎゅっと腕に力を込め、もう一度口付けを落とした。