第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
天王山にて近藤率いる隊と合流した永倉と夢主(妹)達は、わずか十数名の長州の残党が立て篭もる小屋を発見した。
小屋は既に自らによって爆破した後であり、中に居た長州藩士達は腹を切った後だった。
「夢主(妹)は中に入らねえ方がいい。」
黒く焼かれた残党達を確認した永倉は、静かに言う。
夢主(妹)は無意識に涙を流した。
辺りの焼けた匂いと、死が立ち込めた匂いに、無性にやるせなさや悲しさや恐怖や…いろいろな感情がこみ上げる。
日本史の時間にこの禁門の変と呼ばれる事件を習ったのは、ほんの数分だろう。
だが、数分には片付けられない色んな事が沢山起こっている。
私は一体これからどうしていけばいいんだろう?
新選組は、京の町中に火を放ちながら逃げて行った残党を、大阪まで追うことになった。
誰かの為に命を捧げることや忠誠を誓うことを教わってもいない時代に生まれたからか、私にはきっと全く理解できない感情が、新選組にも長州にも薩摩にも会津にも…みんなにあって…私にはそれがわからなくて。
いろんな思いがこみ上げる。
それでも決めたんだ。
土方さんについていくって。
理由なんてよくわからないけど。
禁門の変…1864年6月に起こったこの事件は、京の町を焼き、長州は朝敵となり、大坂夏の陣以来の戦火に見舞われた事件だった…
そう夢主(妹)の脳内に浮かんだ年表と、目の前の現実を噛み締める。
「あっぱれだな。」
天王山で自害した長州藩士の最期を、土方はこう言った。
夢主(妹)は、いつだったかテレビで幕末特集を観ていた時に、
ーーーー新選組は誰より武士に成りたくて成りたくてって奴らが集まってたんだよな。
と、この時代にいたわけでもないタレントさんが、嬉しそうに話していたのを思い出す。
武士…かぁ…
漠然と剣術が楽しくて、毎日の稽古が楽しくて…
土方さんは怖いけど優しくて、かっこよくて、そばにいたくて…
なんて、能天気すぎたかもしれない。
私は武士になりたいわけじゃないけど、武士には憧れる。
「おい」
考えを巡らせて、百面相になっていた夢主(妹)の額を、土方は少し笑いながら小突いた。
やっぱり土方さんと一緒に居たい…
夢主(妹)は難しい事は置いて、今はそれだけを思う事にした。