第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
階段を上りきった頃には、真っ暗な部屋に目が慣れてきた。
更に窓から差し込む月明かりで、一階の部屋より明るい。
そんな夢主(妹)の目に飛びこんできたのは、千鶴が一人の浪士にむかって茶碗を投げている姿だった。
対峙する浪士はたった一人だというのに、そこにいる沖田と千鶴の様子に違和感を感じて、すぐに踏み込まずに様子を伺う。
沖田さんが苦戦してる?千鶴をかばいながらだから?いや…違う…
対峙している浪士に目を向ける。
なんだろう…すごく強いのか、何か変な雰囲気だ…
ふと、沖田の後ろから、負傷している浪士が立ち上がって斬りかかろうとしていた。
「沖田さんっ後ろっ―――」
千鶴が叫ぶと同時に、夢主(妹)はその浪士を蹴り飛ばした。
「夢主(妹)ちゃんっ!」
そう叫んだ千鶴の声は、悲鳴に近い。
「あはは。夢主(妹)ちゃん、なかなかやるじゃない。似合ってるよ?その隊服。」
こんな空気だというのに、沖田はいつもの調子で夢主(妹)に話しかける。
「…………」
浪士はしばらくじっと夢主(妹)を見ていたが、突然沖田に向かってものすごい速度で刀を振り下ろした。
え…何?あの速さ…
夢主(妹)はその刀の速さに目を奪われる。
あの沖田さんが……
刀を構えてその様子を伺う夢主(妹)の目には、沖田に勝ち目がないように見える。
「がはっ―――」
突然、沖田は片膝をついて倒れこみ、胸元をおさえて血を吐いた。
「沖田さんっ!!」
千鶴が沖田へかけよって、その体を支える。
あの沖田が負けそうな姿と、浪士の圧に動けなかった夢主(妹)だったが、やっと二人の前へ出て、浪士を睨みつけて間合いを計った。
「駄目です、沖田さん!」
沖田は胸元を押さえながらゆるりと立ち上がり、夢主(妹)がいる位置まで移動する。
やばい…怖い。
足がうまく動かない!
そんな沖田とは違い、夢主(妹)は震えどころじゃない恐怖を覚えていた。