第1章 誠凜高校入学
今、私は誠凜高校の門前で立ち往生している。
理由は、校舎までの道のりに部活ブース案内…
もとい「勧誘」で先輩方が必死に新入生を足止めし、門前まで人でごった返しているからだ。
『うわぁ…あの人混みの中を割って歩くの嫌すぎる…』
何処か抜け道は無いかと、辺りを見回すが…
人、人、人。
『…このままだと、バスケ部のブース何処か校舎までも辿り着けない気がする。』
「──バスケ部のブースへ行かれるんですか?」
(え?)
背後から降る声に振り向くと、印象の薄い青年が本を開いたまま立っていた。
水色の髪は春風に靡き、硝子玉のような大きな目は感情を表さず、何処かぼんやりしている。
(…誰?)
「これから僕も向かう所なので、一緒に行きましょう。」
パタン─と、彼の手元にある本を閉じる音に一瞬だけど気を取られていると、不意に手を掴まれて歩き出す。
「僕の後ろを付いて来て下さい。」
『へ?』
間の抜けた声が漏れたが仕方がない。
(な、な、な、何!?この状況!?)
彼は気にする事無く人の群れの中へと突き進んで行く。
(ちょ、無謀すぎるって!)
と、掴まれた手を引こうとした瞬間──。
サァァ…
(──え?)
それは、まるで海の波が引いていくように“人が自分達を避けている”ように見え、“風が通り抜ける隙間道を歩いている”ようにも見えた。
(信じられない。あの人混みの中をこんなにスムーズに歩けるなんて。)
周囲を見渡せば、相変わらず立ち往生している新入生達が「10分で5mも動けない!」とか「ラッセル車持って来い!」とか言って苛立っている。
(どーなってるのか全然解らない。…けど、)
『凄い…』
繋がっている手から視線を上げ、彼の背中を見る。
自分と比べると長身に感じるが、細身でそこら辺にいる男子と何ら変わらない。普通の青年だ。
(けど、何か…違う。何が──)
「着きました。」
振り返った彼に考えていた思考を真っ白にされ、フリーズする。
『え?…あ。』
気付けば、目の前にバスケ部のブースがあった。