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【テニスの王子様】王様と私【跡部景吾裏夢】

第3章 過去



唇が離れ呼吸をする。

「…部長、私まだ返事してません」

「無粋なこと言うなよ、この俺様が一目惚れしたんだぜ?」

強気で自信に満ちた瞳が私を覗き込む。

「顔にですか?」

「いや、さっきの背負い投げと、髪を切って啖呵を切ったところだな」

「…変わった趣味ですね」

「そうか」

短くなった髪をわしゃわしゃと撫でられる。

「で、返事は?」

ストレートに好きだと言われた衝撃が大きい。

「良いです、けど」

「けど、なんだ?」

「先輩、さっきの俺の女になれって言いましたけど、付き合うってことは、先輩も私の男になるってことですよね?」

先輩の瞳孔が開く。

「ああ、そうだな」

先輩は驚いた表情から可笑しそうな顔になり、頷いた。

「俺じゃ嫌か?」

断られることなんて、きっと1mmも考えていないんだろう。そういうところが好きだ。

「いえ、好きですよ、先輩のこと。初めて見たときから」

先輩がまた驚いた表情になる。少し頬が紅い。

「そんな先輩の顔、初めて見た」

いつも余裕の顔をしているのに。

「……お前の笑顔もな」

そう言われて初めて自分が微笑んでいることに気付いた。頬に手をやると確かに口元が緩んでいる。

「先輩、私先輩のこと好きです」

口に出すとまた笑みが零れる。

眼鏡なしで笑ったのはいつぶりだろう。長太郎と知り合った時かな。 やっぱりこの人は特別だった。私が見つけた特別な人。

「ああ」

と紅い顔で返事をする跡部先輩がなんだか可愛くて、独り占めしたいと思った。

また大きな手が私の髪を撫でる。

「お前、髪バラバラになっちまったな。美容師呼んでやるから、今日は俺の家に来い」

「え、良いんですか?」

「ああ、俺様の部活で起こったことだ。フォローしねぇとな」

間近で見る跡部先輩は初めてテニスをしているところを見た時と同じように、キラキラして見えた。

ポケットから眼鏡を取り出してかけると、口元がさっきよりも綻ぶのを感じて安心した。

「ありがとうございます」

「お前、眼鏡がないと笑えねぇのか?」

「うーん…、普段は眼鏡がないと、無意識に無表情になっちゃうんです」

「そうか」

跡部先輩が肩を抱く。暖かい。

男の子に肩を抱かれるなんて初めてだったけど、なんだか安心する。

首をもたげるとふわりと髪を撫でられた。
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