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そうして君に落ちるまで

第6章 まずは触れてから考えよう2(コムイ)









「で、ここの地域の伝統儀式についてちょっと調べて欲しくて…」




…………何だろうこれは。


室長の部屋で、怪しい怪奇現象がある村の調査資料について話している時だった。

言葉はちゃんと耳に入ってるというか、むしろ意識的に聞いている。


なのに。

なのにどうしてだか室長の視線が、指先が、彼との距離が気になってしまう。

そんなに遠くもなく近くもない。あくまで手が届く程と言った距離なのに、触れているかのようにその存在が異様に近く感じて仕方がない。


「でね、僕の見立てだと……沙優くん聞いてる?」


「えっ?!あ、ゴメンなさい。」


一瞬、気を抜いたらこれだ。
必死に動かしていた手はかろうじてメモを取っているから話はわかるけれど、完全に無表情だったと思う。そうだ、この人は普段から良く人を見ているんだった…。


「大丈夫?なんか上の空だけど…」


資料を見ていた視線がスッとこちらに向けられると、瞬間、喉の奥が詰まり、さらに彼の足が一歩こちらへ近づくと、ドッと鼓動が高まるのを感じた。

えっ何これ。何だこれ。

今まで散々、キスだのハグだのした後でもここまで緊張というか、意識することはなかったのに。しかも今室長は完全に仕事モードなのに。


「顔もなんか少し赤くない?」

スッと手が伸ばされると、思わず体がビクッと反応し、目をそらしてしまった。


「えっ」

「あっいや、ゴメンなさい、ちょっといや、あの大丈夫なんで。」


ほら、話の続き。と笑ってその肩に触れれば、室長は少し眉をひそめて、腑に落ちないと言った顔をしながらも話を続けた。




「…じゃあ、お願いね。」

「はい。失礼します。」

「あ、待って。」


ようやく話が終わり、一刻も早くこの場を離れたいと思っていたのに。

腕をガッと掴まれると無理矢理体を室長へ向けさせられる。



「ねぇ、本当に大丈夫?」


ジッとこちらを見つめるその目は本当に心配してくれているようで。でも今、その視線はちょっと、本当、心臓に悪い。


「本当、大丈夫ですから。ありがとうございます。」


笑ってそっとその肩を押せば、やはり納得はしていないようだけれども手を離してくれた。





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