第36章 綱手姫
sideールミー
私は今、弟と一緒に座敷で正座してその時を怯えながら待っていた。
「うっ……ひっく…………ごめんな、さいっ……」
隣にいる幼い弟は、泣きながらそう言っていた。
私も何故か、今は6歳くらいになっていた。
"ミシッ、ミシッ"
床のきしむ音が徐々に近いてくる。
「立て。」
座敷に父の声がした。
私と弟は怯えながらも立ち上がる。
足が痺れていたが、恐怖で気にならなかった。
振り向くと、そこには棒を持った父が立っていた。
その棒は、父が私たちを叩くために買った棒で、それを手にした父を見た私たちは、次に何が起きるのか理解した。
「……う"ぁぁぁぁぁぁ……ごめんなさいごめんなさい……」
弟は目を見開いて体を硬直させて震えていた。
(助けて助けて助けて……誰でもいいから!)
私は無駄だとわかりながらそう思わずにはいられなかった。
誰も助けてくれるわけがないと言う絶望の中、それでも誰かが助けてくれる、もしくは父の気分が変わるという奇跡を願わずにはいられない。
せめて弟だけでもここから逃がしてあげたいと思うが当然そうはいかない。
私は降り下ろされる棒に目を瞑った。
「そこに並べ!」
気付くと風景が一変していた。
薄暗かった座敷から、昼間の茶の間に私はいた。
私は何故か正座して、二人の弟が仏壇の前に並ぶのを見ていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ……お願いしますお願いぃぃぃぃぃっ!」
背中しか見えないはずの弟の怯える顔が鮮明によぎる。
弟は狂ったように同じ言葉を繰り返していた。
だが、謝っても無駄なことは私も弟もわかっていた。
(私たちは、何も悪いことをしていない……)
それでも、父の罰と言う暴力を止めてもらえるよう、謝るしかないのだ。
(生まれてきた事が悪いって言うなら話は別だけど……)
だが私は、自分も含め、生まれて来ていけない生き物はいないと思っている。
だから、私たちは何も悪いことはしていない。
だが、無情にも罰は執行された。