第3章 岸辺露伴の恋愛事情
「康一君、康一君ッ」
小声ではなしかける。
「何でアレ言っちゃうの康一君!」
「だって先生に君を本にして調べさせてもらわないといけないし‥これしか方法はないかなって」
先生は白い紙を手にしてすぐに戻ってきた。
「ほら、原稿。見ろ」
そう言って私の目の前にずいと絵の描かれた原稿を突き出した。
視界いっぱいに広がる原稿。
途端、昨日のようにバラバラと音がして私の左手が本のようになる。
椅子からずり落ちそうになった私を先生が支えてくれた。
「うーん‥全部彼女の字だ‥先生の書き込みは無いですね」
「だから言ったろう」
康一君達が私の左手の本を顔色一つ変えず読んでいく。
「え!?」
突然ページをめくる手を止めて康一君達が一斉に驚きの声を上げた。
「まじかよ!?」
「これって露伴の書き込みじゃあねぇよな!?」
左手の問題のページは、私からじゃ見えない。
「何?何て書いてあるんだよ」
先生が私の体を支えつつ、左手の本をのぞき見る。
「‥なぁっ!?」
先生までも驚きの声を上げた。
「ちょっ‥‥露伴これ消したほうがいいんじゃあねぇのかよ?」
「いや、彼女に黙ってそれは‥‥」
何が書いてあるのだろう?
みんな騒がしい。
「なんて書いてあるの?」
一斉にみんなが黙ってしまった。
「いや‥‥これはよォーなんつーか‥」
あの億泰君が口ごもる。
「さすがに僕も言えないかな‥」
「俺もチコッとまずいかなァ」
康一君と仗助君まで。
「露伴先生、すみません疑って‥さすがにこれは予想外というか‥‥」
教えてくれずに進む話。
「‥‥いや、いい」
少し怖くなって来たところで、私は自分の耳を疑った。
「ちょうどこれを書き込もうと思っていたんだ」
私に触れている先生の手に力が入る。
仗助君達から、息をのむような音が漏れた。
つまり、先生は私にして欲しかったということが、既にされていた‥‥ということだろうか?
「つーことは‥問題なし?なのか?」
「うん、そういうことになるのかな」
どことなくほっとしたような、困惑したような顔。
左手が元に戻され、結局何が書いてあるのかはついに分からなかった。
「僕らはもう帰るけど、君は少しここに残ってくれる?」
またモデルか何かの手伝いかな?
「わかった、そうするね」