第3章 岸辺露伴の恋愛事情
ペンが私の左手へ触れようとした、その時。私はどうしてか目を閉じてしまった。
突然の大声にはっ、と目を開いた。
「露伴先生ッ!何してるんですか!?」
叫びながら部屋に入ってきたのは康一君だった。
「あ‥‥康一君」
「やっぱり何かするんじゃないかとは思ってましたけどまた本にしてッ!」
露伴先生が立ち上がると、私の手も元に戻った。
「ごめんね、怖かったよね?」
床にへばったままの私に康一君が手を差し出してくれる。
その手を取って立ち上がると、散らばっていた原稿に目がいった。
みな裏返しになってしまっていた。
康一君にお礼を言って、その原稿を拾い集める。
「先生、これ」
原稿を差し出すと、先生も康一君も驚いた顔をしていた。
「君、あんなことをされたのによく優しくなんて出来るねぇ?」
受け取りながら先生が私の顔を覗き込む。
「先生、もう二度としないでくださいよ!?」
「分かってるよ、つい魔が差したんだ」
そこで、疑問に思ったことを聞いてみた。
「あの、先生は私に何かしたんですか?」
「あー‥‥君を本にしたのは僕だ」
それを聞いて康一君は私に問うた。
「何か書き込まれたりした!?」
私はふるふると首を横に振る。
そうして私は康一君につれられて先生の家を後にした。
「ほんっとにごめんね‥‥まさか本当にするとは思ってなくて」
「ううん、いいよ、気にしてない。‥‥それより気になることがあるんだけどいい?」
「うん?なに?」
「私もう先生に呼んでもらえないのかな」
私の言葉を聞いて康一君が固まった。
「えっ‥‥!?な、なんで!?」
「へ!?私なんか変なこと言った‥!?」
「本当に何も書き込まれてないんだよね‥?」
「?‥うん」
「もしかして‥先生に合いたいとか?」
「‥私、先生に合いたいのかな」
そう言ってしまった後、康一君が「マズイぞ‥」とぽそりとつぶやいたのを聞いた。