第3章 友の死
俺と奴は、幼い頃からよく小さな事ですぐ喧嘩をしていたそうだ。例えば林檎を一つずつ手渡されればやれどちらが大きいだの小さいだの、甘いだの酸いだのから始まり、終いにはどちらが先に食べきっただのないだの。端から見りゃ微笑ましくもあり鬱陶しいガキだったに違いない。
奴の親は当時じっちゃんが隊長だった一番隊の平隊員だったそうだ。あまり目立つ男ではなかったと聞いたが、誰にでも別け隔てなく優しかった彼は人望もあり信頼も厚かったんだとか。
勿論それはじっちゃんも同じだったようで、仕事が終われば大抵山本家に呼んではよく酒盛りに付き合わせていた。それさえにも嫌な顔をせず、俺や兄貴にも優しくて。
じっちゃんもじっちゃんで彼の息子である奴にもよく目をかけ、俺らと同じ実の孫のように可愛がっていた事、俺は知ってる。
だから奴が死神になると言った時、じっちゃんはあまりいい顔をしなかった。死神は常に命の危険と隣り合わせの生業だから。
「虚から隊員を庇って……」
「頭は虚に喰わ……らしい」
十一番隊の修練室に置かれた一つの棺。その前で俺は無表情のまま項垂れ後ろでコソコソ流れ話をする他隊の奴等の話をぼーっと聞いていた。
いや、実際は何も耳には届いていなかったと思う。
ただずっと"何で"だとか"どうして" だとかがずっと巡って、巡って、巡って。
だから気が付かなかったんだ。俺と同じくらい……いやそれ以上に共に駆け付けた仁之心の方が心痛な面持ちだった事に。
「樹(たつき)……」
ポツリ……と、俺だけが知る奴……阿蘇剣八の真名を呼ぶ。十一番隊の隊長は代々剣八という剣豪の名前を名乗るのが通例となっていた。樹もまた十一番隊の隊長に就任が決まった時に実の名を捨て、阿蘇剣八と名乗り始める。
でも。だけど。