第3章 オヒメサマ
『どこに、いくのですか・・・?』
掠れた声が出てきて、自分でも驚いた。
今まで何度もし慣れた行為の筈なのに、まさかこんなに憔悴するとは。僅かな驚きを瞳にたたえた私に、彼はシャツを羽織ってから答えた。
『起きたか』
『・・・はい』
かさついた喉は張り付いたようで、言葉がうまく出ない。
緑粋色の瞳が私を見つめ、彼は短く呟いた。
『お前はあまり寝ない体質か』
『はい。最低限の睡眠で十分です』
答えると、彼の長い手が伸びて私の髪を掬った。
その様子を黙ってみていると、また彼が口を開いた。
『アザードだ』
『え?』
『俺はこれから、アザードへ向かう』
アザード、と口の中で言葉を咀嚼して、思い出す。伝統文化豊かな大国・アザード。彼は今からそこへ向かうらしい。
『二日もせずに戻るが・・・』
そこで言葉を切ると、彼はふと笑みを浮かべて呟いた。
『本当、なんの偶然なのだろうな』
彼の言葉の意味が分からなくて、思わず押し黙る。
『・・・』
『折角良いものを見つけたというのに、暫しの間お前に構えんとは。・・・俺もついていないな』
苦笑した彼の手がゆっくりと上に上がって、そして私の頬に触れた。
――頬を撫でるその手がやさしいと感じるのは、果たして気のせいだろうか・・・?