第12章 灰羽リエーフの1日 2017
PM5:25
『それ、ちょうだい?』
指さされたのは俺が切り分けてフォークを刺したパンケーキ。
珍しい。
美優さんに分けた分、少なかったかな。
俺はコーヒーを飲みながら口の中をリセットし、俺の食いかけのパンケーキをフォークから外す。
そして丸々一枚残っているパンケーキを切り分けようとしたんだ。
だけど切り分けようとした時に美優さんがまた俺の名前を呼ぶ。
『ね、リエーフ。
”それ”ちょうだい?』
美優さんが指差したのは俺が今切り分けようとしたまん丸のパンケーキじゃなかった。
美優さんが欲しがっていたのは皿の端っこに置かれている一口サイズのパンケーキ。
これで良いのかと問えば美優さんはこくりと頷く。
じゃあどうぞと皿を差し出せば、美優さんは淡い色のグロスでつやりとした唇を指差した。
もしや、と思いパンケーキをフォークに刺し美優さんの口元へ持って行くと、美優さんはぱくりとそのパンケーキを口に入れた。
『おいしい…ね?』
ペロリと唇を舐めた美優さん。
照れ臭そうに笑う美優さんが可愛くて、俺は思わず美優さんの手を引き寄せる。
俺の意図がわかったのか淡く染まっていた顔をさらに赤く染め後ろへと逃げる美優さん。
逃がさないよ?
引き寄せるために掴んだのは美優さんの左手。
す、と指を滑らせ美優さんの指先を俺の指に乗せるように置くと、俺は迷わず”約束の指”の付け根にそっと唇を落とす。
「美優さんが悪いんだ。
美優さんが可愛いことするから。」
小さくリップ音を立て指を解放すれば、美優さんは真っ赤な顔で小さく呟いた。
『リエーフの…ばか…』