第12章 灰羽リエーフの1日 2017
17:20
パンケーキを一口大に切り分け、お皿に流れたメープルをすくい口に運ぶ。
『おいしい…』
そうぽそりと呟くと、リエーフがくすりと笑う。
その声に顔を上げればリエーフはふわり微笑んでいた。
「よかった。」
口元についているらしいクリームを、リエーフの指がそっと拭う。
さっきまで「食べなくていい」なんて言っていたはずなのに、食べたら「おいしい」なんて…
正反対のことを言っていること、そして口の端にクリームをつけていたことが恥ずかしくなりふいと視線をそらせば、リエーフはさらに小さく笑いだす。
「美優さん顔真っ赤。かわいい。」
可愛くなんかないよ。いつもリエーフに心配かけてばかりで…
『可愛くなんか…ない。』
恥ずかしくて、素早くパンケーキを切り分けるとぽんぽん口の中へ放り込みコーヒーで流し込む。
ブラックコーヒーの苦味とパンケーキの甘さがぶつかり合うことなく混ざり合っている。
そしてスフレ生地がコーヒーで溶けそうなくらい軽い。
美味しくて、すぐに完食。
お皿の中にあるフレンチトーストは上に乗ったクリームがフレンチトーストの熱でとろとろにとろけ始めている。
そのクリームが垂れないようにぱくりと頬張れば溶けた生クリームとメープル、そしてパンに染み込んだ卵液が口の中で混ざり合い舌の上でとろけていく。
美味しくて頬が緩む。
フォークも進む。
思ったよりもハイペースで食べていたらしく気づけば皿の中は空っぽ。
ついでに後から来たコーヒーも空っぽになった。
美味しかったしお腹も満足。
ふとリエーフを見れば、お皿は先ほど取り分けたままの状態。
ふわりとしたシフォンのパンケーキも、とろけたクリームが乗ったフレンチトーストもお皿に乗ったままだ。
『あの…リエーフは食べないの?』
そう問いかければ、はっとした顔。そして、苦笑い。
「美優さんの幸せそうな顔見てたら食べるの忘れてました。」
慌ててフォークとナイフを持ち、食べ始めるリエーフ。
慌てすぎて飲み込む前にひょいひょいとパンケーキを詰め込んでる。
『ねえ、リエーフ?』
「ふぁんふぇふか?」
口の中にシフォンのパンケーキをパンパンに頬張り喋りづらそうなリエーフ。
やっぱりリエーフは食べてる姿が可愛い。
そんなことを思いながら私はフォークに刺さるパンケーキを指差した。