第1章 新生活の幕開け
「おぅわあ!!?」
初めに手を離したのはわたしの方だった。
「おっと、ワリーワリー、大丈夫だったか?」
その黒髪の男の人は、わたしの方を見て笑顔で謝ってきた。
なんていうか…あれだ…チャラい。
「あ、いえ、すいません、わたしの方こそ…」
「ん、いいよいいよ。それよりおばちゃん、おしるこってもうないの?」
「あ〜ごめんねぇ、それが最後だわ」
と言って残念そうな顔をする購買のおばちゃん。
まじか。ないの。
「あっちゃ〜まじか…ん〜〜…」
その男の人は頭をかきながら、すこし俯いて考えてから小さく「しゃーねぇ」と言って、また人混みの中に入って行こうとした。
「えっ、あっちょっと待ってください!おしるこ、買わないんですか!?」
そうわたしが呼びかけると、男の人はくるっと首だけ振り向いて
「んあぁ、いーよいーよ、俺は。別に俺が飲むわけじゃねーしな。」
の、飲まないって…じゃあなんで買おうとしたのか、と聞こうとしたけれど、男の人は既に歩き出していて、もうほぼ人にのまれていた。
それを見てわたしは急いで
「あっ、ありがとうございます!」
と、叫んだ。
すると人混みの中から、ひょっ、と、おそらくあの男の人のものであろう手が出てきて、ひらひらと軽く揺れた。
わたしは、それを見てなんだか無性に嬉しくなった。