Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第40章 最高の誕生日《澤村 大地》
頬を流れるものに気付き、慌ててそれを拭い、むりやり笑う海宙。
「言いたくないことなら、言わなくてもいい。いつか、教えてくれたら。でもな、海宙。そのせいで海宙が傷付いてるのを見るのが、俺は悲しいんだ」
『だいち、く…』
目にいっぱいの涙を溜めて、海宙は俺に抱き付いてきた。ふわっと甘くて、優しい、太陽の香りがした。
『ごめんなさい。なんか、嬉しくて』
「う、嬉しい?」
『うん。ちょっと待っててくれる?』
リビングを出て、戻ってきた彼女の手には小さな箱と手帳のようなもの。
『大地くん、27歳のお誕生日おめでとう』
「開けても…?」
こくり、頷く海宙。黒いその箱を開けると、中からはスタイリッシュな腕時計。しかもブランドもので、ずっと欲しかったもの。
「これ…っ!」
『うん。大地くんにプレゼントしたくて。あとね、プレゼントには意味があって。時計には"貴方の時を、私にください"って意味』
「そうか、そうなのか…」
すごく嬉しい。どうにも言葉にできなくて、頭の中がわーっとなっている。
「ありがとう。大事にするよ」
『それとね、もう1つ、あって…』
そう言うと、彼女は小さな手帳を渡す。
「っ、これ……!?」
"母子手帳"
そして"お母さんの名前"のところには、澤村海宙の文字。
『今ね、2ヶ月、なんだって。大地くん、お父さんになるんだよ?』
「俺が、おとう、さん…」
慈しむようにお腹を撫でる。海宙の表情は、母親のそれだった。
『撫でてあげて。大地くんの子供だよ?』
「お、おう…」
そっとお腹を撫でる。そこに1つの"いのち"があると思うと、なんとも言えない思いがあった。
『大地くんの時間を、私とこの子にください』
「ああ、俺も、そうしたい」
ぎゅううっと海宙を抱きしめる。御中の子にも、この愛が、溢れる愛が、伝わればいいと、そう思った。
「海宙」
『何?』
「愛してる」
普段なら、照れ臭くて言えない言葉。けれどどうしても、今、伝えたかった。
彼女は照れたように、くしゃりと笑った。
『ありがとう。愛してます、大地くん』
きらり。
真珠よりも綺麗な粒が、輝いていた。
END.