Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第23章 ★"10年"と彼女《花巻 貴大》
手を繋ぎ、ホテルを出る。勿論、指を絡めて恋人繋ぎだ。見上げると、チカチカと眩しかったネオンは鳴りを潜め、代わりに太陽が燦々(さんさん)と輝いている。
路面が濡れているから、夜のうちに雨でも降ったのだろうか。雨音なんて気にならないくらい熱中していたんだなぁと、思った。
最寄り駅まで向かい、方向が逆だということでそこで別れることになった。
「じゃ、また。あ、今夜ヒマ?」
『うん。仕事終わったら連絡するね』
「おう…」
なんとなく別れるのが名残惜しく、言葉を模索する。と、きゅっと手を握られる。
『会ったら、たっくさん話そう?』
「だな」
俺はフッと微笑み、頭をポンと撫でた。そしてその頬に、ちゅっと口付けを落とす。ボンッと音をたてて真っ赤になる海宙。
『~っ、もう!でも、大好きですっ!』
「俺も、好きだよ」
普段なら言えないような言葉も、君のためならいくらでも言えるよ、海宙。手を振り改札の向こうに消える背中に、そう思う。
俺は明るい気持ちを抱き、電車に乗り込み会社へ向かう。その足取りは、どこまでも行けそうに、軽い。
「遠足の前日のガキかよ…」
自嘲的に言ってみるも、やっぱりニヤけてて。今夜海宙に会うのが、楽しみで楽しみで、仕方がなくて。
濡れた路面に白い雲、青い空。
まるであの日あの時にタイムスリップした、
そんな錯覚を見た。
景色と雰囲気と、それから気持ちと、
10年前の告白した翌日の朝のそれと、
すべてが同じように感じた。
俺は今日、
この瞬間を、
死ぬまで忘れないだろう。
「運命って、あんだなぁ…」
ぽつりと呟いた一言は、窓から吹き込んだ爽やかな風に運ばれ、夏の近付く青空へと消えて行った。
END.