Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第22章 ★オモチャと彼女《国見 英》
【国見 side】
あぁ、眠たい…
窓際の一番後ろという絶好のポジション。春の麗らかな陽光が差し込めば、睡魔が襲い掛かってくるのは、最早必然である。
5現目、数学。はっきり言って、超絶眠い。
夢の国に飛び立ちそうになった瞬間、コツンと頭に何かが当たった。床に転がったそれは"MONO"と書かれた白い消ゴム。
どこから飛んできたのかと見渡せば、斜め右に3つ前の席から俺を振り返り、ニヤリと笑う彼女の姿。それからノートを見せてきた。
"寝たらだめデスヨー?
英の家に遊びに行かないからね?"
なるほど。今の俺には絶大な効力を持っている言葉だ。渋々頷くと、彼女は今度こそ穏やかな笑みを浮かべ、前を向く。
…そして机に突っ伏した。
俺には寝るなと言っておきながら、自分は惰眠を貪る気なのか、こいつめ。
「海宙、覚えとけよ…」
その呟きが聞こえるはずも無く。最強に眠たい午後一発目の授業、俺は丸々起きるはめになってしまった。
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「…だから練習マジメにできませーん」
「そんな理由が通るわけ無いだろ!?」
「ちぇ…」
基礎練習、手を抜いているのが溝口コーチにバレたらこのザマだ。少しくらい手を抜いたって良いのに、このコーチはまぁ真面目。
「分かったら戻れ。真面目にやれよ」
「善処しまーす」
まだ何か言いたそうなコーチに一礼し、金田一の隣に戻る。もうすぐ練習試合があるらしい。トリノだかカラスだかって高校。弱小校だが、"コートを制す"ためにも、一戦一戦を全力でやれとのことだった。
そして部活後。荷物を持って帰ろうとすると、後ろから呼び止められた。
「次の練習試合、本気出してね?」
及川さんにそんなことを言われた。隣では岩泉さんも、大きくうんうんと頷く。
「国見は力、出そうとしねえからな」
『違いますよー。国見はエコカーなんです』
そう言いながら近付くのは海宙。俺の彼女、兼マネージャーだったりする。
『中学の頃から国見は低燃費だったんです。エンジンかかるのは遅いですけど、みんながバテた頃に頑張りますよー』
ね?と言う彼女に、そうそう、と適当に頷く。それから先輩たちにペコリとお辞儀をし、彼女の手を取って歩き出した。