Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第20章 ★文学少女の恋愛論《二口 堅治》
【二口 side】
その子を見たのは、とある部活中だった。体育館の入り口に立ち、そわそわと誰かを探しているようで。立ち去ろうとする彼女に声を掛けた。
「ねぇ、誰か探してる?」
『はいっ!?』
くるりと振り返る彼女。あごの少し下の辺りで切り揃えられた黒髪に、ぱっつんの前髪、真ん丸の黒目が印象的だった。
「誰か、探してるっしょ?」
『あ、ええと…』
彼女は少し視線を泳がせて、それから"青根先輩はいらっしゃいますか?"と言った。敬語だ、すげー、いらっしゃいますかって。
礼儀正しいなぁと思いながらよく見れば、その手にはラッピングされた袋を持っていた。
はっは~ん、さてはこの子…
「青根が好きなの?」
『っ、い、いいえ!私じゃなくて、あの…』
てっきり青根が好きなのかと思ったら、そうでは無いらしく。ちらりと振り返る彼女の視線の先には、茶色の低めのツインテールの子の姿。
『あの子は歌川紫乃(うたがわしの)といって、1年生です。これを、青根先輩に渡したいと言ってて…』
「で、勇気が無いからキミを通じて、俺に渡すよう頼んでくれ、と」
こくり、と彼女は頷く。俺は彼女からラッピングされたものを貰い、必ず青根に渡しておく約束した。
「…で俺の分、無いの?」
『無い、です、ね…』
デスヨネ。俺の分作ってきてる訳無いか。その差し入れだって、青根になんだもんな。
「だよな。悪いな、ヘンなこと言っ…」
『あ、あの、差し入れ、作ってきますか?』
ごめん、と言おうとして、驚く。差し入れ作るって、俺に、か?
『いえ、迷惑だったら遠慮しますけど…』
「作ってくれるの、マジで?」
『はい。不定期でしょうけど…』
「それでも良いよ。やー、ありがとね。やっぱさ、運動部って動くから腹減ってさ」
ははは、と笑えば、クスリと聞こえた。その時初めて、彼女の笑顔を目にした。表情にあまり変化の無い子だったからか。
あ、カワイイ。
その思いがストンと胸に降りた。