Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第14章 ★宵の月光《及川 徹》
【蒼井 side】
どうしたもんかなぁ…
トントンと右手の人差し指で机を叩きながら、目の前に置かれた書類とにらめっこする。まとまっているようで、内容がごちゃ混ぜのそれ。最近指導している新人のもの。
うちの社では、新人は2年目になると、その年の新入社員の指導をするというきまりがある。私が担当の商大の新卒の彼は、天然というかなんというか、少し変わっていた。
それでも、底抜けの体力はあるし、スピードだけはずば抜けて早い。手先も器用で、訊いてみればバレーのセッターをやっていたらしい。アレだよね、ボールを上げる係りの人。
『セッター、ねぇ…』
「海宙ちゃん"天才セッター"って俺のこと読んだ~?」
『いえ、一言も言ってません』
どうしたもんかなぁ…この困った上司。
後ろから嬉々として声をかけるのは、1年先輩の及川徹さん。私の担当だった人で、色々と良くしてくれる。高校時代、天才セッターと言われた彼は、今やプロジェクトリーダーだ。そんな及川さんは…
少しばかり、アプローチが多い。
私にばっかり話し掛けて、仕事もしないで。そんなことしてるとホラ、
「クソ川!書類仕上げろゴラァッ!」
「ぎゃっ、いだいっ!?」
あ~あ、岩泉さんが怒った。
拳骨を落とされる及川さん。まぁ、いつものことだ。訊けば、2人は腐れ縁で、バレーも一緒にやっていたとか。
微笑ましいことだ…と思いたい。切実だね。
「蒼井さん、言われたとこ直しました」
声を掛けられた方を振り向くと、紙の束を持った後輩くんの姿があった。
『はい影山くん、お疲れ。お昼休み良いよ』
「アザッス」
さっきの書類の改訂版を渡すと、彼はペコリとお辞儀をして出ていった。あ、影山くんは私の担当の子ね?そして、その様子を恨めしそうに見る影が1つ…
「影山のヤツ、俺の海宙ちゃんに…」
『及川さんのものになった覚え無いですが』
そう、困ったことに、影山くんと及川さんは高校バレーでの因縁関係。つまるところ、今の私は完っ全に板挟みなのだ。