Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第13章 今を生きて《月島 蛍》
葬式やら遺産の振り分けやら、気が付けば1ヶ月が経っていた。彼女は残されたものの全てを僕にくれた。僕には受けとる資格も無いのに。
今日はそんな彼女の月命日だ。
仏壇の前の彼女は、眩いばかりの笑顔。
彼女がいなくなってから、頭に浮かんでくるのは笑っている顔ばかりで。
思い出す度に、泣いた。
女々しいかもしれない。
それでも、
彼女が全てだったんだ。
「遺品、整理しなきゃな…」
彼女がいないことから目を背けたくて、病院から持ち帰って放置した荷物。そろそろ開いても良いかもしれない。
着替えや小物なんかを片付けながら、ふと、一冊の本を見付けた。パラリと捲れば、中からするりと何かが落ちてきた。
「これ…」
"蛍へ"と書かれたそれは、桜色の封筒。心臓が高鳴り、手が震える。何が、書いてあるのか。そっと封を開けば、彼女の綺麗で整った字で、彼女の想いが綴られていた。
"蛍へ
これを読んでるってことは、私は死んじゃった後だよね?貴方を残してしまうことをどうか許してください。
えっと、何を書くか迷うけど…とりあえずお庭の花たちの面倒を見てあげてください。"
そこまで読んで、思わず笑った。自分が死にそうなのに、なに花の心配してたんだか。そして続きを読んだ。
"真面目な蛍のことだから、私が死んじゃったらきっと責任感じるよね?でもね、自分のこと責めちゃダメだよ。自分のこと大切にして、自分の人生を生きて。
私の分も…なんて、図々しいことは言わないから。だって、蛍の人生だもんね。まだ時間はたっぷりあるから、好きなことして、好きな人も作って、幸せな家庭を築いてね。
私はたぶん、空の上からそれを見てるから。蛍のこと、見守っててあげるね?
今までありがとう。
大好きです。
海宙より"
長すぎず、短すぎず、ちょうど良い長さでその手紙は終わっていた。最後まで別れの言葉を言わない辺り、彼女らしい。
「大好きです、って…」
フッと口元が弛む。
なんだよ、過去形じゃないんだ…
「僕も、大好きだよ…」
庭に出れば、青空。透き通った空を仰ぐと、頬を温かいものが伝った。
さぁっと吹くのは春の風。
彼女の好きな季節がやって来る。
彼女のためにも、
今を生きよう―――
END.