第2章 やっと一歩
台本には台詞と基本的な動作が少し書いてあるくらいで、その他は特になにも書いていない。
これなら、やりやすい。
目の前に写し出される映像に声を合わせていく。
『わたし、歌手になりたい』
「·····急に、なに?」
さすが、売れっ子声優の下野さん。
役の見せ方を知っている。
この味っ毛のない印刷された文字が萩野翼として生きている。
書いていない、息づかい。
言葉の間。
それをしっかりと表現している。
学べることは多い。
「······なら、俺はお前の一番のファンになる!」
わたしなら、どういう風に次の台詞を言う?
泣きそうなくらい嬉しい。
これをどう伝える?
『翼·····。うん、ありがと』