第2章 やっと一歩
今からする場面を何度も見返すものの、なかなか役に入りきれない。
「はい。それでは、マイクの前に立ってください」
別室にいるスタッフから指示が出る。
大丈夫、落ち着け。
わたしなら出来る。
こんなの、またとないチャンスじゃない。
そこまで思ってから、わたしは自分の思ったことに焦りを感じた。
またとないチャンス。
つまり、これを成功させないとわたしにチャンスは一生訪れないかもしれない。
呼吸が荒くなる。
天宮さんさあ、また怒られてたね。
当たり前じゃん。
だって、演技力ないし。
ほんと、あんなのでよく声優になろうとか思えたよね。
······なんで今、そんなことを思い出すの。
大丈夫。
大丈夫だから!
だから、落ち着いて····。
手が震える。
「あの、ちょっと待ってもらってもいいですか?」
え?
「とりあえず、一回出るよ」
下野さんがわたしの腕を引っ張ってレコーディングルームを出ていく。
状況を読み込めないわたしは、されるがままについていくしかなかった。