第13章 月夜の語り
少しだけ、静寂が流れた。
アリババは、何かを思い返すように遠くを見つめて、強い瞳でアラジンをまっすぐと見据え直した。
「ああ、わかったよ。少し長くなっちまうけど、まずは俺の友達の話を聞いてくれないか? 」
「いいよ」
アラジンは穏やかな声で言った。
「そいつは……、カシムっていうんだ」
「カシムって、あの昼間の? 」
ハイリアは、昼間に出会った茶色い長髪のドレッドヘアーをした少年を、思い出した。
「ああ、そうだ。ハイリアさんは、今日会ったんだよな。あいつは、俺の親友なんだ」
静かに語り始めたアリババは、カシムとの関係について話してくれた。
カシムは『霧の団』の本当のリーダーで、アリババにとって、家族同然の人なのだそうだ。
アリババと、カシムはスラムで育ったのだという。
アリババのお母さんは、スラムで娼婦をしていて、育て親がいなくなったカシムと、その妹を引き取ったそうだ。
それからは、三人とも、兄弟同然、本当の家族のように育ったらしい。
それが壊れていったのは、アリババの母親が病死してからだったという。
兄弟で働きながら、なんとか毎日を生活していたある日、スラムへ突然やってきた王様に、アリババは、自分がバルバッド王家の血を引く者なのだと、突然、告げられたという。
アリババのお母さんは、王宮で下女をしていた人だったそうだ。そのときに見初められて生まれたのが、アリババなのだという。
王宮へ戻って、暮らすように王に言われたアリババは、王宮に行くべきか迷い、カシムに相談したそうだ。
しかし、この時にカシムから言われた暴言が元で、二人は仲違いを起こしてしまったらしい。
結局、仲直りできぬまま王宮に入ったアリババは、その日からバルバッドの第3王子として生活してきたという。
王宮での生活は、とても辛いもので、卑しい生まれだと陰口をいわれ、他の王子や臣下からも相手にされず、孤独な日々だったそうだ。
その上、毎日剣術や学問を学ばされ、厳しい日々の連続だったらしい。