第12章 街角の出会い
どこの道から来たのかさっぱりわからなくなり、困って後ろを振り返れば、同じように道を戻っていたカシムと目があった。
「……すみません、道を、教えてください……」
青ざめた表情でハイリアが言うと、カシムは可笑しそうに吹き出した。
結局、彼に道を案内してもらうことになってしまった。
町で流行っているバザールが近くにあるというので、そこまで一緒に行ってくれることになった。
「それにしても、まさかあのオヤジを投げるとは思わなかったぜ! 」
「あれはとっさに……。あんなに恐く迫られれば、嫌でも体が動きますよ」
「だからって、普通は投げねぇーだろ。ただの観光客のガキだと思ってたから、あれには驚いたぜ! 大体、なんでこんな場所の店に来たんだよ? 普通は、中心部の露店を見にいくだろう? 」
確かに、バルバッドの中心街にも一般人向けの露店はあった。
けれど、あそこの露店はどこも値段が高いし、見るからに観光客向けという商品ばかりで種類も偏っていた。
「あんなのぼったくりで、美味しくない店ばかりじゃない! 」
「へぇ~、詳しいのか? チビの手口には簡単に引っかかるし、てっきり初めて旅行に来た素人なんだろうと思ったぜ」
あんまり意外そうな顔をして、カシムが言うから、ハイリアは少しムキになった。そんなに世間知らずに見えたかと思うと、腹が立つ。
確かに、油断して子どもの詐欺に引っかかったけれど、長年キャラバンで生活をしてきた、自分の知識を舐めないで欲しい。
「当たり前でしょ! 私、こう見えても結構な都市を今まで巡ってきたんだから! どこの都市でもそうだけど、普段から美味しく食べられているものって、普通の市場にあるのよ! 」
話しに熱が入ったハイリアが、バザールの楽しみ方について語り始めた時、急に頭の上が軽くなって、ばっさりと後ろ髪が落ちる音がした。
気づけば、カシムにターバンをかすめ取られていた。
「あ、やっぱり女か! どうりで野郎っぽくねぇーわけだ」
ターバンを剥ぎ取ったカシムが、まじまじとハイリアのことを見て言った。
「ちょっと、何するんですか! 返して下さい! 」
カシムが持つターバンに手を伸ばしたが、ひょいとかわされた。