第12章 街角の出会い
「うちのチビ共が悪かったな。これ、取っておいてくれ」
カシムは、そう言って戸惑う店主の男に、大きな宝石がついた高そうな指輪を握らせた。
店主は納得のいかないような顔をしながらも、それを受け取るとハイリアを睨み付けながらも、道を戻って行く。
「お前ら、最近ガキ共の教育がなってねぇーぞ! ちゃんとしとけ! 」
「ああ、悪かった」
苛立ちながら店へと帰っていく店主を、カシムは余裕たっぷりに手を軽く振って見送っていた。
いったい何者なのだろうか。雰囲気も堂々としているし、独特の風格がある。
『仲間』と店主がいっていたし、この辺りの土地をしきる組織の一人なのだろうか。
「ありがとうございました。助けていただいて……」
突然のことに戸惑いながら、ハイリアは知らない少年にお礼を言った。
「気にするな。さっきチビ共を助けてくれただろ? 巻き込んじまったみたいで悪かったな! あいつらには、俺から言っておくから許してくれ」
カシムという少年はそう言って笑顔を向けた。
先程のスラムの子ども達と知り合いみたいだし、この人もスラム街に住む人なのだろうか。
それにしては、あんな高価な指輪を軽々と人に渡せるなんて、羽振りが良すぎて妙である。
「いえ、もう気にしていませんし、大丈夫ですよ。本当にありがとうございました! 」
ハイリアは笑顔を向けると、もう一度、助けてくれた少年に礼をして、元来た道を戻るため足早に歩き出した。
あんまり関わらない方がいいと判断したからだ。
こういう素性のしれない人とは、すぐに別れるに限る。面倒なことに、これ以上巻き込まれるのはもう嫌である。
それに、早くアラジンに何か買っていって食べさせてあげたかった。
変なことに道草をくってしまったせいで、随分と店から離れたところまで来てしまった。
行き止まりだった一本道をたどって戻ると、すぐに三本の分かれ道にあたった。
左右に分かれて入り組んでいる三つの道は、周りが民家の外壁で囲まれていて、どれも茶色で似通っていた。
特徴がないせいか、どれも同じような道に見える。
慌てて走っていたから、景色なんてまともに見ていなかったし、覚えてもいない。
三つの道に違いの差を見つけられず、その先の道を思い出せなくて、ハイリアは、血の気が下がっていくのを感じた。