第12章 街角の出会い
もう、あとを追ってきた頭に血が上って、話がわからなそうなおっさんを、どうにか説得してみるしかないようだ。
「とうとう、捕まえたぜ! お前が、あの……、ガキ共の兄貴、だったとは、な! 」
息を切らしながら、店主が怒鳴った。
「だから、違うんですってば! 」
「うるせぇ!! 何回も、何回も、俺の店ばっか、狙いやがって!! 」
「わかりました。じゃあ、盗まれた分の代金を、全て私がお支払いするということで、どうでしょうか? 」
「代金、代金って、払えばすむって問題じゃねぇんだよ!! 」
息が切れるのをこらえて、落ち着いた口調で話しているというのに、すっかりハイリアをあの子どもの兄だと勘違いしている店主は、やはり全く聞く耳を持とうとしなかった。
じりじりと迫る店主に後退して、ハイリアの背中は行き止まりである民家の壁にぶつかった。
「来い! この分はしっかり償ってもらう! 」
店主にがっしりと腕を掴まれた。
男を今ここで倒してしまおうかと思ったが、暴行罪で本当に罰せられてしまう自分の姿が、脳裏に浮かんだ。
それは嫌だ。でも、話も聞いてくれないというのに、他にどうやってこの場を切り抜ければいいんだ。
ハイリアが、頭を悩ませていた時、突然知らない声が響いた。
「おい、おっさん。その兄ちゃんから手を離しな! 」
店主の肩を掴みながら声をかけてきたのは、茶髪の長いドレッドヘアーをした吊り目の少年だった。
いつの間にかそこにいた、赤いピアスをつけた少年を見るなり、露店の店主は顔を引きつらせた。
「カシム!? ってことは、こいつもお前の仲間か?! 」
「まあ、そんなところだな」
カシムという少年がそう言うと、店主は苛立ちながらもハイリアから手を離した。
何度言っても話を聞こうともしなかった店主が、素直に応じている。
ハイリアが驚く目の前で、カシムと店主の取引は、静かに行われた。