第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「嫌だ、こんなのが、私の運命だなんて……! 」
見定めた流れを拒絶したハイリアの泣き声が、すべてを黒に塗りつぶして闇を湧き上がらせていく。
闇は漆黒の風を巻き起こし、あいつに突き刺した氷槍をなぎ倒して黒ルフどもを騒がせた。
割れ砕けた氷が飛び散って、辺りをわずかな冷気が覆い、それが何もできずに拳に爪を立てる自分の肌をも冷やしていった。
荒風に混じる黒いルフどもは、歓喜の声を上げて螺旋を描き、暗黒の宿主となったあいつの元へと飛び向かう。
祝福するように飛び舞ったその闇が、堕転を果たしたあいつの身体に溶け消えていった。
巻き起こっていた風は止み、空気の乱れが途絶え、辺りは少しずつ静けさを取り戻していく。
それなのに、なぜか聞こえるはずの声がしない。
砕けた氷に埋もれたまま、ピクリとも動かなくなったハイリアの姿に困惑し、ジュダルはたまらず駆け出した。
「おいっ!? 」
急いで抱き寄せたその肩が、ゆっくりと上下して安堵する。
気を失っているだけのようだった。
「あらあら、そんなに心配しなくても大丈夫でしょうに。よかったわねぇ、ジュダル。望み通り、あなたの王が堕転できて」
くすくすと笑った玉艶の声に、抑えていた怒りが急激に膨れ上がる。
血が逆流するのを感じながら、側に立つ女に掴みかかっていた。
「……っ、ふざけんな! てめぇ、はじめから俺を……!! 」
声を張り上げて睨み付けた玉艶は、引き込んで乱れた衣類を気にする様子もなく、妖しげな笑みを浮かべている。
「謀ってなんていないわ。仕方がなかったじゃない。あなたの手には負えない問題が生じてしまったのだから。そんなことより、そろそろお目覚めみたいよ? 」
腕の中で動いたハイリアの身じろぎを感じてハッとする。
視線を戻したその先で、うっすらとまぶたが開かれて、ブドウ色の瞳がぼんやりとこちらを動き見た。
「ハイリアっ! 」
呼びかけたその表情は、まだ冴えない。
何が起きたかわかっていないのだろうか。
黙り込んだまま、こちらをじっと見つめてくるだけだ。
「おい、わかるか? おまえ、堕転して……! 」
「……ぎ……? 」
閉ざされていた唇がかすかに動き、何かを言った。
けれども、小さすぎて聞き取れない。