第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
── こいつが……、『ルフ』だから、なのか……?
闇に覆われていく淀んだ光を見つめながら、飛び交いながら側へ来る、白いルフどものことを思い出した。
付き従うようにいつも側にいる、闇深い黒ルフどものことも。
異常なほど、組織から自分を救い出すなんていう馬鹿げた妄信に執着していたハイリアは、どれだけ陥れて傷つけても、決して自分のことを憎み恨むという選択はしなかった。
まるで繋ぎ止める鎖でもあるように、いつまでも頑なに拒み続けて。
呼びかければ、嬉しそうに鳴き声を上げて答える小さな鳥どもは、どちらもその身を捧げてこちらへ集い、力となる。
決して自分を裏切ることはなく。
ただひたすらに『マギ』へと向かうその姿が、なぜだか頑なに拒絶し続けたハイリアの哀しげな眼差しと重なり合って困惑する。
裏切ることがないルフどもは、いつもマゴイを貸す時に自らをかえりみることなんてしない。
それが『ルフ』の役目だから。
『マギ』を信じ、加護を与えるそれが当然のことだから。
そういうモノとして、生まれついているから。
── 『ルフ』だったから……? だから、俺を恨むことが絶対に出来なかったとでもいうのか……?!
気づいたその事実に驚愕する。
それでは、今まで自分がやってきたことの意味がわからなくなる。
何をしても憎み恨むことができないなら、それはこいつに裏切りを思い知らせ、心を折り砕き失望させるための、ただの布石でしかない。
──まさか、あの女……、はじめからすべてわかって……!!
「見えるでしょう? あなたの運命の道筋が……」
楽しそうに導き紡ぐ玉艶の言葉によって、砕けてしまったハイリアの真髄が黒く染まっていくのが見えた。
嗚咽を漏らすハイリアの残り火が消え、黒ルフどものビィービィーと鳴き騒ぐ声が広間いっぱいに響き渡る。
あの女の手で堕転していくその姿に、堪えきれないほどの苛立ちが募り、声を荒らげて叫びたいのに、理解してしまった頭が動きを止めて立ち尽くしていた。
止めたところで、どうすればいいのだ。
この手で、あいつを堕転させられないのに。
刻まれた呪印は、役目を終えるまで決して止まらないというのに。