第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「なんだよ? 聞こえねーって」
不思議な物でも見るようにじっと眼差しを注ぐハイリアに苦笑しながら言ったとたん、閉じた唇がもう一度ゆっくりと動き出した。
「マ、ギ……? 」
今度は、はっきりと聞こえたその言葉に思わず黙り込む。
── マギ……?
ちぐはぐな感じを覚えるその言葉は、普段、親父どもが言うことはあっても、ハイリアが口にすることはほとんどないものだ。
なぜこいつは、いつものように名前で呼んでこないのだろうか。
「……あ? おまえ、何言って……? 」
ふざけた冗談に戸惑う中、ハイリアはなぜかじんわりと涙を滲ませて、こちらに腕を伸ばしてきた。
「……まちがってない。やっぱり、マギだ……。あたし……、ずっと、捜して……! 」
そう言って、ぎゅっと抱きついてきた少女の温もりにうろたえるまま、勢いに押されて腰を打っていた。
包まれたその腕の柔らかさも、感触も、いつもと何も変わらないのに、こいつは何かが違っている。
ハイリアの確かな異変にためらいながら、ジュダルはしがみついてくる見た目は変わらないその少女を、ただ腕の中に抱きとめていることしかできずに黙り込んでいた。