第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「さっきの忘れもんだ、ハイリア。くれてやるよ。サルグ・アルサーロス!! 」
──俺の、勝ちだぜっ!!
勝利を確信して血が沸き立つのを感じながら、空から一斉に氷の刃を撃ち込んだ。
力を失っても、なお立ち上がるその意志をへし折るように突き刺した氷槍は、ハイリアの身体を押し倒して、床に縫い付けるようにその動きを奪う。
手を封じ、足を封じ、突き刺した場所を凍てつかせる氷の刃は、いつしかあいつの魔装を解いていた。
冷気は空気を澄み渡らせて、ぼやけた霧を晴らし、白く小柄な少女の敗北をはっきりとさせる。
白のワンピースに血を滲ませながら涙を流す、その姿を。
「よぉ、やっと元に戻ったな。目ぇ覚めただろ? くだらねぇー力つけたって、おまえには何もできねーんだよ。けどまぁー、少しは面白かったぜ、ハイリア」
側に降り立ち、満ち足りた気分で微笑んでやったが、ハイリアは涙をこぼすばかりで答えもしない。
希望を見失ったようなそのルフが深く濁っていくのが見えたが、それでもまだ一つ残る白い輝きは消えていなかった。
「あらあら、可哀想に……。少しやり過ぎでないかしら? そんなに傷つけたら死んでしまうわよ、ジュダル」
ころころと笑う声に視線を送ると、覆面の従者に囲まれながらこちらに歩み寄ってくる玉艶の姿があった。
── なんだ、わざわざこっちまで来たのかよ……。
「こいつは、これくらいじゃ死なねーよ。やわじゃねーんだから」
「それもそうね。堕転も完全に果たさないまま、暗黒に身を染めて自在に動けた被験体なんて、この子くらいなものだもの。
まさか、こんなに最後まで抵抗を示すとは、思いもしなかったけれど。さすがは稀なる存在といったところかしら……」
くすくすと玉艶が笑い、横たわるハイリアの傍らに座り込んだ。
涙を流すその姿を楽しげに覗き、化粧でもさせるかのように血筋の赤を指でぬぐい取って、目元へ擦り付ける。
「綺麗だわ。どんなに傷だらけになろうと、真っ白なあなたは赤が映えて……。でも、もう終わりにしましょう?
あなたには、堕転して完成してもらわなければ、我らのために」