第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
あいつが宿す、白いマゴイ。
黒とは対照的なそれが、ルフと同じく杖へと集う。
── そういや、あいつも『ルフ』だっけか? ……まぁいい!
どうせあいつ自身の動きだって、すぐに止めてやるつもりなのだ。
これでいくらマゴイを食らうことになろうが、かまいやしない。
── さあ、終わりにしようぜっ!
杖先で膨れ上がった漆黒のマゴイに照らされながら、壊れた闇の衣に残された最後の暗黒の一端を引き抜いた。
バラバラを崩れるように空中へ飛び散った黒ルフどもを眺め見て、完全にこちらの支配下においたハイリアを見下ろし笑う。
黒い軌跡がマゴイの闇に消えた気配に愉悦を感じ、絶望に囚われていくあいつの表情にゾクゾクした。
「やっと少しは元に戻ったな。残る魔装も引き剥がしてやるよ。おまえ、確か水が苦手だったよな? 」
集めたマゴイの塊に得意の魔法式を伝えて巨大な水玉を作り上げたとたん、面白いように青ざめたハイリアに歓喜して、脳が痺れて震え出す。
暗黒に感化された身体が熱を帯び、宙に分散させた水玉で獲物を追いつめる感覚に胸が高鳴った。
慌てて空に逃げ出したハイリアの足取りは遅い。
水に沈められないように躍起になって駆けているようだが、あいつらしい機敏さのカケラもなくなっている。
それもそのはずだろう。
あいつのマゴイは、もう切れかけている。
銀の双剣に揺れる青い炎は、あとわずかだ。
脱兎を捕らえるように、宙に漂う水玉をあいつへ向けて素早く集結させた瞬間、大玉の一つが真っ二つに切り裂かれたが、燃え上がった炎の威力も弱い。
まともに打ち消すことができずに、残った水滴が飛び散っている。
「どうした? おっせーぞ、おまえ。つまんねぇー動きしやがって、こっちもまだ余ってんぞ! 」
押し寄せる水玉の合間をどうにかすり抜けたハイリアの前に立ちふさがって杖を向けた。
無数の水弾丸を前から撃ち込めば、焦るあいつの背後から再び迫る水玉の群と挟み撃ちになる。
逃げ場のないその状況に戸惑うハイリアの姿は、まるで弄ばれる小鳥のようだった。
周囲を見渡し、怯えて、全く余裕がない。
あいつの苛立ちが、混乱が、恐れが、手に取るようにわかって笑えてくる。
捕えるのも間近だ。
あいつはもう、こちらの手の平の上で転がされているに過ぎない。