第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
── あとは、あいつがまた調子づく前に、あのふざけた魔装を引き剥がさねぇーと……。
上空に浮き上がって、周囲をぼやかす土煙の中からハイリアの姿を探し出し、すぐに床でうごめく黒い影を見つけた。
起き上がろうとしてモゾつくその影の背に、影よりもいっそう濃く映る黒の片翼がひらりと揺らめいて思わず顔をしかめる。
倒れても消えやしない、あのデカイ翼は目障りだ。
── 何がルフだ……、王鳥だ。くだらねぇ、半端な力つけやがって……!
金属器を握るハイリアの手に刻まれていた、赤くひび割れた亀裂を思い出す。
あの傷は、あいつが魔力を振るうたびに深まっていた。
本来の金属器とは違う力を無理やり引き起こしている代償なのだろう。
使い続ければ自分の身が滅んでいく中途半端な力のくせに、あいつは止まる気配さえ見せてくれない。
土煙が晴れた隙間から、もうこちらを睨んでいる。
「なぁーんだ、まだ動けるのかよ」
よろけながらも身を起こし、鋭い視線をぶつけてくるハイリアに呆れながら言ってやった。
「巻き込まれるのわかって、攻撃してくるなんて……! 」
爆風をもろに受けたらしいその身体は、砂塵で汚れて見るからにボロボロだというのに、威勢だけは良い。
「あんなもん、痛くも痒くもねぇーよ。おまえ、俺を甘く見過ぎなんじゃねーの?
にしても邪魔だな、その魔装……。剣はぶっぱなすし、動きは素早しっこいし、魔法まで自由に使いやがる。まともにおまえを相手にするのは、ほんと面倒くせぇよ……」
「だったら早く終わらせましょう? 空に逃げようと、ワタシには関係ないわ。もう一度、捕まえて今度こそアナタを眠らせてあげる」
闘志を剥き出しにしたハイリアが立ち上がり、双剣の黒炎を燃え上がらせたとたん、その背で漆黒の羽根が大きく揺らめいた。
艶めいた暗黒の闇が輝いて、羽ばたく片翼の中できらめく黒ルフどものマゴイが勢いよく増幅していき、流れるようにハイリアの身体へと取り込まれていく。
足りなくなった力を満たすように。
── なるほどな、おまえの動力源はソレってわけかよ。
マゴイを使いまくっているわりには、なぜか魔力の減りが少ないとは思ったが、その理由がようやく見えた。