第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
脈打つような暗黒の片翼を羽ばたかせるハイリアの意識は、その身にまとう黒ルフどもに囚われているようだった。
恨み憎む存在は、玉艶と親父ども。
殺意を向ける組織に利用された、救済すべき存在が、この俺自身。
そんな都合のいい妄信に支配されているような奴に、何かを言ったところでまともな会話なんかできっこなかった。
暴走するバカを止める方法は決まっている。
力で打ち負かして、屈服させればいい。
しかし、それも楽にとはいかないらしい。
玉艶との戦いを妨げたことで、こちらを完全に邪魔者と見なして突っ込んできたハイリアの攻撃は、どれも滅茶苦茶なものばかりだ。
動きを封じるように雷撃を放てば、金属器から燃え上がった黒炎が、魔法を瞬時にルフのきらめきへと戻してしまう。
触れた瞬間から魔法を解くあの炎は、あいつが追いつける範囲までしか影響できないようだが、厄介なことは変わりない。
すべてが無効化できないように、雷弾の数を増やして辺り一帯に攻撃を放ったところで、あいつは金属器に宿る力ではないはずの風魔法をぶっ放して抵抗してきた。
玉艶に放っていた氷混じりの竜巻といい、どうやら今のあいつは魔法を自在に使えるらしい。
金属器使いが、剣を杖代わりに魔法を使っているなんてどうかしているのだが、ルフの化身だとか、王鳥だとかいう特殊な体質持ちならできるということなのだろう。
完全に堕転しきっていないあの身体で、取り込んだ無数の黒ルフどもを意のままに操り従えていること自体反則技なのだが、軽くヒト離れしている今のあいつにそんなことを言っても仕方がない。
── しっかし……、さすがにさっきのは間一髪だったな。
爆風で傷だらけになった身体を見て思う。
魔法でかなわないと知るなり戦闘スタイルを剣術に変え、猛虎のごとく斬り込んできたハイリアに馬乗りにされたのは今しがたのこと。
危うく喉を毒牙で突き刺されそうになったが、雷魔法に小細工したおかげで助かった。
逆もどりさせた雷撃にあいつが気づき遅れた結果、攻撃を阻もうとした黒炎が暴発を起こして、上に乗っていたハイリアを吹き飛ばしたのだ。
爆発の全てをボルグが防ぎきれなかったせいで、こっちまで砂塵に刻まれる羽目にはなったが、これで圧されていた戦況も元に戻せたはずだ。