第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
── くっそ、なんでこんなことに……!?
最悪の状況に焦りを感じた。
組織の中で、一番えげつない魔法を使うあの女のことだ。
杖を手にしたなら、ハイリアに対して何をするかわかったものではない。
それなのに怒り叫んだハイリアが不気味な片翼を羽ばたかせ、黒炎が燃え盛る双剣から氷の混じる突風を放ち始める。
あいつの金属器にはないはずの魔法を。
── やめろっ! そんなもんじゃ、おまえは玉艶に勝てねぇ!
嬉々として杖を振りかざそうとしている玉艶に苛立ちながら、ジュダルは急いで杖を手に取った。
横たわっていた身体を起こした瞬間には、すでに解き放たれた氷風までの距離を捉えていた気がする。
咄嗟に作り出した雷撃が、巨大な閃光となって氷風にぶつかり当たったのは直後のこと。
轟音と共にシューシューと巻き上がった白い蒸気を見て、氷風をかき消した手ごたえを感じたが、ちっとも気なんか休まらなかった。
霞んだ白い靄に浮かぶ黒い片翼の影に、言いようのない不安を感じて背筋がぞわぞわする。
あの魔装は異様だ。
あいつは何か違うものに成り果てようとでもしているのだろうか。
── おまえは、そんな姿じゃねーはずだぜ?
ヒナだ、ヒナだと言っていた、白と黒の騒がしい鳥どもの姿が思い出されてイライラした。
起こっている状況に頭がついていかなくて、髪をくしゃくしゃと掻き毟る。
なんでこうも思い通りに事が進んでいかないのだろう。
「……ったくよぉ、こいつに手ぇー出すなって言っただろ? 何勝手におっ始めてやがるんだよ」
声を聞くなり艶やかに口元を上げた、霧の間に見えた気に入らない女を見据えながら、ジュダルはくすぶった熱が増幅していくのを感じて、眉間にしわを寄せた。